ミューレン
vol.15_2014 June 540yen (tax in)
山の看板
街と山のあいだ。
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販売店訪問記
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全国各地に点在する『murren』の販売店。
折りに触れて、編集部が訪ねて歩いた販売店をご紹介します。
旅の途上で、散歩の途中で、ぜひお立ち寄り下さい。

 
◎盛岡 hina(ヒナ)
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  盛岡のhinaは、2007年に小誌が創刊したときから置いて下さっている雑貨店である。

 小誌の創刊にあたっては、これといった営業も宣伝もせず、数人の協力者の他は、本当に誰も知らない闇夜の船出といってよかった。それだのにhinaは、発売と同時に立ち上げたWEBを見て、編集部に連絡してきて下さった。それはとても丁寧なメールで、お店で販売したいので取引条件を教えてほしいというものだった。hinaの他にも創刊号から扱って下さり、いまだに取引が続いているお店が何軒もあるが、そのいずれもが、売れなかったらどうしようという不安ではち切れそうだった当時の私にとって、本当にありがたい存在だった。

 その後も毎号の注文メールのやりとりで、私はいつものごとく勝手にイメージを膨らませて、店主の竹花さんを物静かな若い女性だろうと思っていたが、あるとき盛岡を訪れた折りにお会いしたご本人は、大らかで気さくで、お母さんのような安心感を兼ね備えた方だった。東京で雑貨のお仕事をしていらした経験もあり、故郷盛岡に戻って、お店をなさっているということだった。私たちはすぐに打ち解けておしゃべりし、盛岡ならどの店のカレーがおいしいとか、おそばならここがいいとか、お餅はこの店で、などといった地元ならではの情報も図々しくいろいろと教えていただいた。

 それから、販売店を初めて訪ねたときはいつもそうするように、『murren』がどこにいるのかをそっと探した。広々とした店内にはうつわや切手や文房具や本や布ものや、女の人が好きな雑貨がところ狭しと置かれていて、つぶさに見て歩くのには大変な時間がかかりそうだった。盛岡で働いている女の人が仕事帰りに楽しみに寄って、あれこれ見て、小さなものをひとつだけ選んだりするんだろうなと思う。そんな一隅に小誌はちゃんと居場所をもらっていて、新刊の内容を説明した、お手製のポップまで付けてもらっていた。竹花さんは、いつも決まって買いに来る方がいらっしゃいます、と教えて下さった。

 『murren』以外にも、私の作る本を読んで下さっている常連のお客さまが近くに住んでおられるからと呼び出してくれて、私たちは大いに盛り上がり、時間さえ許せば、そのまま一杯飲みに繰り出さんばかりの勢いだったが、その日帰京しなければならなかった私は、最終の新幹線の時間を聞いて青くなり、走りに走って飛び乗った。お店は駅から歩いて10分ほどの距離なので、かろうじて間に合ったのである。

 以前から盛岡は好きな町で、岩手の山の行き帰りに何度も訪れていたが、これからは行くたびに訪ねる店が一軒増えたことが嬉しかった。もちろん、好きな町に小誌を置いてくれるお店があって、読んで下さる方がいることは本当に嬉しかった。

 そのとき私はお店で茶色い陶器のスープボウルをひとつ買ったが、竹花さんは、いいんですか、買ってもらってとすまなそうにおっしゃった。いいものは東京にいくらでもあるのに、といった口調だったけれど、私はhinaで買いたかったのだ。夕食どきに食器棚からその茶色いボウルを出して白いスープをよそったりするたび、hinaでの楽しかった初秋の夕暮れのひとときを思い出している。

 

hina
http://zakka-hina.com/

 

 

◎札幌 presse(プレッセ)
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 知らない町で地下鉄に乗るにはちょっとした勇気がいる。車窓から外の景色が見えていれば、町のようすがつかめるが、真っ暗な地下ではそんな当たりもつけられないし、土地勘のない場所では、地上に出たときに右も左もわからない。

 札幌のプレッセはそんな市営地下鉄に乗っていく店だった。初めて見る駅名が並んだ路線図を見上げて、東京に初めて来た人もこんなふうにあの複雑な路線図を見上げるのかと思う。小誌の販売店の多くは、ふだんはメールのやりとりがほとんどで、地方であればなおさら、顔を合わせたこともなければ、声も聞いたことのない方もたくさんいらっしゃる。プレッセもそのひとつである。

 しかも、今日は別の取材で札幌へ来た帰りに急にうかがうことにしたので、すでに閉店時間ぎりぎりである。道に迷っている余裕はない。焦りと不安を抱えたまま地下鉄に乗り、最寄り駅で地上に出ると、そこは郊外の住宅街といってもいい、静かな地区であった。駅前にショッピングセンターがあり、夕方の買い物に来た人たちが普段着姿で歩いている。お店のHPにあった案内図を頼りに、自転車置き場の脇から細い遊歩道を抜けていくと、この町の暮らしに入り込んだようで、気持ちが落ち着く。

 感じのいいカフェを見つけ、後で行きたいねなどと同行者と話しながら行くと、その先の木造の二階家がプレッセだった。いくつかのお店が入っていて、2階の右手がプレッセである。店に入ると中は縦長に広く、北欧やヨーロッパの雑貨がずらりと並んでいる。

 お店のHPを拝見していて、店主の須藤さんは楚々としたなよやかな人なのかなと勝手に想像していたのだが、案に相違して、大地に足をつけて、しっかりと立っている印象の方だった。それでいてやさしく穏やかな話し方をなさる。年に一度は北欧を巡って買い付けをするという須藤さん自身の目で選んだ品々が、このお店全体の、かわいいだけではない、生活に根ざした力強い雰囲気を作り上げていることが、話していてすぐに知れた。

 ひとしきりお話しした後、少し見てもいいですかと言って見始めた店内は、どこもかしこも魅力的な品々に満たされていて、こんななかに小誌を置いてもらっているなんて、申し訳ないようで恐縮してしまう。どこにうちの子が、とでもいった気持ちでそっと探すと、棚の一隅でなに食わぬ顔をして表紙を見せて立っていた。このような冊子を、こんなお店に来る人たちが買って下さるのかと、まったくありがたさでいっぱいになる。一見して他の雑貨とは違和感があるだろうに、それをこうして毎号置いて下さるなんて、好意というのはこういうことをいうのではないだろうか。

 さてその先も店内を見ていくうちに、すっかり夢中になった私は、終いには床にしゃがみ込んでお菓子の古本などを選び始め、同行者にもう閉店だよとたしなめられてしまう。そしてリトアニアの籠だのスウェーデンの古本だのフィンランドのリネンだのをしこたま買い込み、なにをしに来たんだかわからない有様になってしまった。

 品物を包んでくれる須藤さんが立っているレジの後ろの窓からは、緑に覆われた山がすぐそばに見えている。あまりに近いので、山の形がすべて見えるのではなく、中腹のラインだけがゆるやかに見えている。あの山はなんという山ですかと聞くと、円山ですと教えて下さる。登れるんですかと聞くと、登れますよ、頂上まで道がついていて、上が公園になってるんですとおっしゃる。低い山なのですぐ上がれます、でもふだんは見ているだけで、しばらく登ってませんけど、とちょっと恥ずかしそうに言われた。窓からは涼やかな夕方の風が吹き込んでくる。今度うかがうときには、円山にも登ってみたいなと思った。

 

presse(プレッセ)
http://momentsdepresse.com